体外受精の問題点
体外受精には膨大な費用がかかることが、この方法に踏み切るかどうか悩んでいる夫婦の間で、難点にあがっています。
一般に、採卵から凍結させるまでに30~60万程度、子宮に戻すときに10~20万程度かかるといわれています。健康保険が適用されず、自治会によって補助金制度のある地域もあります。これに加えて受精卵の管理費用が年間1~5万円かかり、長時間、病院で保存するために必要とされています。
日本産婦人科学会では受精卵の凍結保存期間を、「被実施者夫婦の婚姻の継続期間であって、かつ卵子を採取した女性の生殖年齢を超えないこと」と定めています。こうした高額な医療費がかかることに加えて、必ずしも成功するとは限らないのが頭を悩ませます。
体外受精の成功には、「胚培養士」という存在が、医師とともに重要な役割を担っています。胚培養士になるには、臨床検査技師を経て、もしくは大学などで生物学の勉強をしたのち、特別なトレーニングを受ける必要があります。
不妊治療の成功率はこの胚培養士にかかっていると言っても過言ではなく、不妊治療を行いクリニックでも、技術のある胚培養士と組めるかどうかを重視している傾向があります。なぜなら、卵子や精子、受精卵を直接取り扱うのが胚培養士だからです。
取り出した卵子を精子に注入し、受精卵の培養をし、凍結をする、これらすべてで高い技術を要します。医師が採卵した卵子を短時間のうちに培養庫にしまう必要があり、そこからさらに顕微鏡で、最も良質な精子を選び抜き、卵子に注入しなければならないのです。
このときの針の刺し方が受精率を大きく作用します。そして、受精卵を凍結するときの温度の扱い方にも細心の注意が必要です。医師の手で受精卵を子宮に戻すときも、胚培養士がチューブのもっとも良い位置に受精卵をいれておく必要があります。この位置により、子宮の最適な位置に受精卵が入るかどうかが決まってしまいます。
最近になり、体外受精の成功率をホームページや冊子などで公表する病院も増えています。しかし、病院により妊娠、の判定基準が異なるのも事実です。血液検査で妊娠反応がすこしでも上がれば妊娠、とカウントする病院もあれば、超音波で胎のうがみられたのを妊娠、とする病院もあります。
前者の基準のほうが数字が高くなるため、わたしたちからみると「妊娠率の高い、技術をもった病院」となります。口コミや実際に訪れた際の応対の印象、待合室の雰囲気、地域の評判なども参考にしたほうが良いかもしれません。
顕微授精(ICSI)
体外受精で妊娠できない場合のステップアップした不妊治療です。約20年前に開発され、体外受精より受精率が高いと言われています。体外受精と、精子と卵子を体外で受精させたのち、子宮へ戻すという点ではほぼ同じですが、体外で精子と卵子を受精させるときの方法が異なります。
体外受精では卵子に精子をふりかけ、自然に受精にいたるのを待ちますが、顕微授精では顕微鏡で見ながらピペットを使い、卵子のなかに精子を直接注入します。精子の運動率が低かったり、精子の数が少ない場合や、女性の卵子の受精する力が弱いために自然に受精にいたらない場合でも、顕微授精ならば受精のサポートが可能です。
顕微授精の大まかな流れ
体外受精とその流れはほとんど同じですが、大きく次の5段階にわけて説明します。
- 排卵
排卵誘発剤やホルモン剤、hCG注射などで排卵を促します。 - 採卵
排卵された卵子をクリニックで採卵します。麻酔をした状態で、直接膣内に器具を入れ行います。 - 精子の採取
自宅かクリニックで射精した精子を、クリニックで精子を遠心分離機にかけ、良質のものだけを選定します。 - 顕微授精
顕微鏡で見守りながら、マイクロマニピュレーターで捕まえた精子を1つ、細いガラスの管で卵子のなかに直接注入を行います。 - 胚移植
- 受精卵を培養士が培養して、子宮の中に医師が戻します。
顕微授精の問題点
顕微授精では、体外受精などの不妊治療同様、保険が適用されません。基本的にすべて自己負担のためその費用は大きいです。
顕微授精の費用は一回当たり、約30から50万円といわれています。体外受精より高額なのは、体外受精ならば自然に行うのに任せる「顕微授精」の工程が6~8万円加味されるからです。
一個の受精卵をつくるために一個の精子を注入せねばならないため、受精卵完成までに複数回かかる場合もあり、そのかかった回数だけ体外受精より費用が上がるのです。場合によっては当初の予定の倍の費用になることもあるので、事前に婦人科で具体的な例や金額を確認することが望ましいです。
顕微授精では国や自治体から助成金が出ます。夫婦の合計年収や妻の年齢など、条件を満たした場合に適用されるので、顕微授精をはじめるまえに自治体に確認しましょう。
顕微授精の成功確率
顕微授精では受精率は70%くらいで、五回の顕微授精で三回ほど受精卵ができるといいます。ただ、受精したからといっても、受精卵を子宮に戻してから無事に妊娠に成功するかどうかは別です。妊娠は、受精卵が子宮内膜に着床し始めて成立します。
その成功確率は年齢にもよりますが、20代ならば平均で40%、30から34歳では35%、35から40歳では約20%、40歳以上では数%になります。
顕微授精のリスク
自然妊娠とは違うので、不妊治療を行う夫婦は何らかのリスクはないかと不安になるものです。ですが、顕微授精によるリスクも自然妊娠によるリスクも、大差はないといわれているのが現状です。リスクを心配して治療をするかどうか悩んで時間が経過すると、確実に卵子も精子も年をかさね機能が弱くなってしまいます。少しでも早く、妊娠率が高く保たれているうちに治療を受けることがオススメです。